めんどくさがりの自分の尻を叩く読書ブログ

読書は好きだ。だがめんどくさい。だけれど面白い本を読みたい。だから感想を書いて尻を叩くというブログ。

はじまりの町がはじまらない(夏海公司著)の感想

 面白い本を読みました。

 サービス終了が決定したオンラインゲームの登場人物たちが自我をもち、世界の滅亡を食い止める……というなかなかトンデモな内容ながら、がっちりと作られた物語で夢中で読み進めました。コンピュータの用語でよく分からないのがちらほらあったくらいで、概ね全編わかりやすい、ライトノベルチックなやつです。

 主人公オトマルは「はじまりの町」の町長なのですが、彼よりむしろ秘書官のパブリナさんの活躍がすごかったです。しかし最後を掻っ攫っていくオトマルさんのかっこよさよ。最後まで読めばとにかく納得の内容なんです。オトマルさんが主人公な理由がわかる、というか。

 パブリナさんはこの世界の仕組みを突き止めて、運営と無関係にクエストをこさえたり、戦争をゲームらしい方法で終わらせたり、果ては世界の秘密を突き止めて終末を遅らせようとしたり、ひたすら有能なんですけど、オトマルさんに対してやたら毒舌なわけです。この毒舌、最後まで読めばちゃんと意味がわかります。

 個人的に商会長のゲームの金持ちテンプレぶりが大変好きです。そして激務に追われることになったオトマルさん不憫。

 というかこの物語のゲームはまあなかなかのクソゲーでして、単純作業でしんどそうなクエストしかなかったり、ザコモンスターがやたら強かったりして、普通に考えて遊ぶ人いないだろうな……というゲームなんですけど、それでも自分たちの知恵で踏ん張るオトマルさんたちが大変よいです。しかしゲームの世界を終わらせないためには少々の集客では意味がなくて……となったあたりからの急転直下ぶりがすごい。とにかく最後まで読めば目が回るほど面白い!!!!

 いやあ面白かったっす。いいもの読んだ〜。早川書房はこうやってときどきラノベ色強めの本出してくるなあ……と思ったらガチのSFの味がしてビックリしましたよあたしゃ。

 オトマルさんが集客のために動画を撮るシーンがあるんですけど、その動画ちょっと見たいまであります。運営の自虐マーケティング……。

 なによりオトマルさんがお人好しなのがいいんですよね。そこから出た結論というか、ラストは本当にホッとします。すごいなあ、この手のゲーム世界の人物が自我を持つ話はいろいろ考えたことがあるんですけど、どれもうまくまとまらなくて、うまくまとめるとこうなるのかあ、と感心しました。

 あとこの本の著者って「葉桜が来た夏」の人なんですね。LINEノベルで読んだのが懐かしく思い出されます。

 とにかく面白かったです、おすすめです!