これはすごい。
文庫も出てたんですか。図書館でハードカバーのやつを借りて読みました。
ざっくり言うと「縄文人の若者の旅」と「2011年夏の新聞記者」が繋がっているお話です。
2011年夏の世界で、古人骨が発掘されます。縄文人の若者と弥生人の女の子が指をからめ、辺りにはコメの化石が落ちている……という状態で。
縄文人の若者ウルクは、陽の色のクマを1人で狩って村落を追われて旅に出て、自分の暮らしていた世界がいかに矮小だったか知るのですが、その旅で弥生人のカヒィという女の子に出会います。
ウルクの暮らしていた村では「コーミー」という作物の噂が広がっていて、それを手に入れて帰れば村に入れてもらえると考えます。要するにコメです。
いろいろすったもんだの末カヒィの故郷フジミクニにたどり着き、ウルクはコーミーを口にします。フジミクニの人たちはウルクの故郷ピナイの人たちと違って、コーミーを育てるためサボったりせずに働くのですが、「みんながやってるからやる」みたいな考え方をする人たちです。そしてなにより、ピナイでは絶対にだれもやらない「人に向かって矢を放つ」ということをします。
やがてウルクとカヒィは恋仲になり、カヒィが村長の妻に選ばれたことを知り2人で逃げ出します。そして、2011年に発掘されたときのような最期を迎える……というお話です。
最初はピナイにコーミーを持ち帰ろう、カヒィを連れ帰ろう、と考えていたウルクが、2人だけの新天地を探そうとするラストのエモみたるや。それからピナイの暮らしの凄まじいリアリティ。
ピナイの人々のいきいきとした生活はワクワクしますし、独特の名詞は一瞬戸惑いますがわかれば楽しいです。
で、2011年のほうでは女新聞記者が主人公なのですが、彼女の死んだ恋人の出自から「日本人とは?」という疑問を突きつけてくる展開がすごい。
ウルクもカヒィも間違いなく日本人で、縄文時代と弥生時代はハッキリ線を引けるものでないということが示されるストーリーがとてもよいです。
最後の参考文献のビッシリ感もすごい。ウチナーグチまで調べてある……。
ふたつの古人骨で、ウルクとカヒィに起こることはネタバレみたいになるんですけど、ウルクもカヒィも生きようと頑張ってこうなった、というのがとてもせつないです。
現代パートが2011年ということは当然あの震災の直後ですよね、その現代でもたくさんの人が頑張って生きてたわけで、そこでまた「日本人とは?」という問いかけになるわけですよね。
ウルクはある夢をよく見るんですけど、その夢があまりにストーリーにハマっててすごいです。
とにかく面白かった。これは5月の連休に遺跡に行かねばならんやつだ。クマ除けの鈴鳴らしながら……。
ウルクとカヒィの、せいぜい16年の人生を思うと、それより長い人生を悔いなく生きねばと思います。縄文時代の寿命って30年とかなんですよね。もうわたし死んでるやんけ……。
というわけでとても面白かったです。これも編集者さんに勧められて読んだのですが、なんで編集者さんは好きな小説をズバリ当ててくるんだろうな??
荻原浩、とてもいいですね。作風がとても幅広い。笑えるやつから泣けるやつまで自由自在じゃん……。
来月もたぶん続きを読みたい本は出ないので、なにを読もうか悩みます。がんばります。