めんどくさがりの自分の尻を叩く読書ブログ

読書は好きだ。だがめんどくさい。だけれど面白い本を読みたい。だから感想を書いて尻を叩くというブログ。

朝ドラ「スカーレット」の話

何度もわあわあ言ってますけど、今やってる朝ドラのスカーレットが凄いんですよ。

何がすごいって残酷そのものなのにグイグイ引き込んでくる物語の力がすごいんです。残酷と言っても朝ドラなのでグロとかではないのですが、人間の優しさと自分勝手さを同時にとっぷり味わえるストーリーはまさに残酷の極み……。

主人公の喜美子は、中学を出てすぐ家のために働きに出るのですが、最初就職するはずだった幼なじみの父が社長の丸熊陶業という会社で「男ばかりの職場に女の子は受け入れかねる、他に雇ってくれるところを紹介する」と言われます。

で、丸熊陶業のひとが家に菓子折を持ってやってくるのですが、妹ふたりが嬉しそうにそのお菓子を食べる様子が映るんですよ、すごい残酷じゃないですか??

喜美子はなつぞらのなつとおそらく同い年なのですが、なつが戦災孤児でありながら引き取られた先が裕福な牧場で高校に行かせてもらえたのに対し、喜美子は家族がいながらその家族のために働き続けねばならないのです。中卒のヒロイン初めて見たかもしれない。花子とアンのはなだって凄まじい貧乏だったのに父親の気まぐれで学校に行けたことを思うと、喜美子の環境はとても劣悪と言えると思います。

で、丸熊陶業で雇ってもらえないと分かって、このままいい就職先を紹介してもらえると思ったのですが、超絶クズ父である常治が勝手に下宿屋の女中という仕事を見つけて、喜美子は大好きな信楽を離れて大阪に出ることになります。

下宿屋の荒木荘はちょっと変わった人たち(下着デザイナー、女新聞記者、俳優志望の中年、医学生)の暮らしているところで、先輩にして上司である大久保さんという女中さんに、厳しい扱いを受けます。空き缶でペン立てを作ったり楽しく暮らそうとしていると暇なら働けとストッキングの繕い物をやらされるのですが、それは内職でちゃんとお給金が出るのです。無報酬の労働ではなかったわけです。

喜美子は内職で美術学校にいけるだけのお金を貯めるのですが、そこでまた常治がやらかします。喜美子を呼び戻して丸熊陶業で食堂の仕事をさせるのです。

この常治という父親、ちょっとお金があればお酒にしてしまう暴力親父なのですが、喜美子が小さいころは酔っ払うと喜美子をかわいいかわいいと撫で回すような父親で、喜美子が大阪から帰ってきたときも声の出ないガッツポーズをして喜びます。いちいち行動が可愛い。そして顔がいい(北村一輝さんなので……)。

常治は優しい人ではあるのですが見栄とか体面を気にするタイプで、しかも家族を自分の思う通りにしたい、という人です。そのためには暴力も使います。母親のマツは常治の言いなりに近い状態で、喜美子の下の妹の直子は家族に反抗し、その下の百合子はまだ小さくて無力です。

美術学校に使うはずだったお金は借金に消えていきました。喜美子は、丸熊陶業でまた女中をするのですが、絵付けの作業を見て「やりたい!」と思います。そして絵付けの仕事をやらせてもらい、これを仕事にしたいと思うのですが、絵付け班の人たちは「若い女の子がちょろっとやってみたがっただけ」と認識していて、仕事にするなら何年も無給で夜遅くまで働かねばならない、と喜美子に言います。

喜美子は家族を養うために労働し、なおかつ家事をして食事や風呂や直子の勉強を教えるという仕事があるのです。そもスタートラインにすら立てないのです。

なんだこれ、喜美子の人生詰んでるじゃん……。だったら荒木荘で働きながら美術学校に行ったほうがよかったじゃん……。常治このやろう……。

どっかのエライひとが「身の丈」とか言って問題になる昨今、この描写は刺激的すぎやしませんか。現代を鋭くエグってくる。

喜美子の置かれた状況は、出口のない貧困スパイラルなのです。働かないと生きていけないけど家事もしなきゃいけない。だからキャリアを積むこともできず低賃金で働き続けなければならない……。

 

今日の回では荒木荘の住人で新聞記者だったちや子さんが雑誌記者に転職して琵琶湖に橋がかかることの取材がてら喜美子の家を訪ねるのですが、ちや子さんは喜美子に「自分のことは自分で決めていい」と教えてくれた人です。

喜美子は絵付けの仕事をできない、と、ちや子さんが来て初めて家族の前で泣くのです。

残酷すぎて人間不信になりそうになるとちや子さんや大久保さんや、幼なじみの照子が助けてくれるのは本当によくできていると思います。

 

まだ語りたいことは色々あるんですけど長くなってしまいました。

この「スカーレット」、すごく面白くて大好きなのですが、重すぎて昼もう一回観る、という感じじゃないんですよね。「半分、青い。」のときもそうだったなあ。あれも最高だった。

 

そのうちまたベラベラ語るかもです。