はい。
これってカバーこんなんだったんですね……父か伯父の蔵書のカバーがないやつしか手元にありませんでした。
これもユーモア小説集とか時間エージェントみたいに読む読む詐欺してた本なのですが、読んでみたらとても平常運転の筒井康隆短編集でした。
そもそもわたくし筒井康隆には中学生のころから夢中になっておりまして、家にある筒井康隆の本は片っ端から読みましたし図書館の筒井康隆の本も片っ端から読みました。中学生にしてヤベェものの薫陶を受けてしまったわけです。
中学生のころ筒井康隆に初めて触れて、こんなヤベェ世界があるのかとびっくりしまして。ヤベェ、ひたすらヤベェとそこからどハマりした次第です。
というわけでこの本に収録されている好きな短編の話をします。
・わが家の戦士
筒井康隆、この手のはちゃめちゃ戦争モノ好きですよね。通いの軍隊とか。
家が戦場になってしまう、突如家に兵士が現れて戦い始めて、家族は木っ端微塵、葬式しに来たお坊さんも木っ端微塵、とにかくドタバタした話なのですが、しかし主人公の仕事が武器弾薬の製造会社という因果なしょっぱさのある話です。
主人公が仕事で武器弾薬の取り引きをすると、家のなかの戦争もひどくなる。因果だ……。
筒井康隆は戦争を滑稽に描くのが上手いので、どこまでもおかしいのですけど、しかし戦争で人が死ぬことは確かなわけです。ううむ……。
筒井康隆という人にかかれば戦争もコメディになるのですけど、戦争は絶対にダメだと訴えるところもある気がします。
・わが愛の税務署
ひどい(褒めてる)。
このあいだ読んだ小松左京の短編集にも税金をテーマにしたものがありましたが、それとは別方向に振り切れていてひどい(褒めてる)。
税金を納めるのは義務なわけですけど、義務を通り過ぎて税金を納めると税務署の人たちに崇められるというアホみたいな(褒めてる)作品です。すげーよこれ。
最後に書いてある「作者注 この小説に登場する個人・団体に特定のモデルはありません」っていうのキレッキレじゃないですか……?
キレッキレのオチというと「亭主調理法」(タイトル違ったらごめんなさい)を思い出すのですけど、それに勝るとも劣らないキレッキレのオチではないですか。なんだ筒井康隆は天才か。
・下の世界
この短編集で一番好きな作品です。いわゆるディストピアですね。
下の層で暮らす肉体労働の種族と上の層でくらす精神階級の話なのですが、下の層の人間が上にいくにはスポーツで勝たねばならないというのはタイの貧しい少年がムエタイ選手を目指すのに似ているし、映画のアリータ:バトル・エンジェルでアリータがザレムに行くためにモーターボールを極めるのにも似ています。
主人公の家族の描写が「あぁ……」ってなるような貧しさで、主人公はそこを脱出しようとして失敗します。
なんというか某ジャニタレとか某事故を起こした元エリートについて上級国民だなんだと喚き散らすひがみ根性人種になってしまった現代日本を見るような家族の描写でして、とりあえず上級国民だ下級国民だと喚き散らすやつはこれを読んでほしい。あなたの考えることは突き詰めればこういうことなんやでと言ってやりたい。
精神階級も人間であるということを描いているのはとても良かったです。
表題作も面白く読んだのですが、しかし元ネタが分からず頭の中でズートピアが展開されるだけでした。
でもどれも面白かったです。やっぱり筒井康隆ってば天才ね!
次こそ金魚姫かギブ・ミー・ア・チャンスを読みたい。