やばいものを読んでしまった……
出たのはだいぶ前でしたが図書館にようやっと入ったので借りてきました。
ざっと説明すると、「昭和の科学者や文学者が、わちゃわちゃしながら粘菌コンピュータの美少女作って天皇陛下にご覧にいれよう!」からの「あれ、粘菌コンピュータの性能危険すぎない……?」からの「粘菌コンピュータを倒すぞ!!ついでに二.二六事件もなんとかするぞ!」というお話です。
主人公はかの大学者、南方熊楠なのですが、この南方熊楠という人がとにかく面白いのです。そこをうまく説明できないのでまあそこは読んでいただければ。粘菌コンピュータ「天皇機関」でクーデターを起こそうとした北一輝という人との描写がうまくて、一歩間違えていたら南方熊楠がクーデターを起こしていたかもしれない……という構造は「ンヒィ〜!!」って奇声出ます。
あと宮沢賢治がチラッと、かつ重要な役で出てくるのですが、そのおぞましい描写も「ンヒィ〜!!」ってなりますよね……。
で、江戸川乱歩が無双するのも痛快で。江戸川乱歩初登場はNHK大河ドラマいだてんでおなじみ浅草十二階の回想シーンなのですが、それもまたヤバみがヤバいのです。(語彙)
なんというか出てくる科学者文学者みんなお前ら厨二病かよという感じで楽しいですし、最初に南方熊楠を「昭和考幽学会」に誘う福来さんというひとがなかなか面白い造形なんです。
そして昭和考幽学会は全員黒衣で顔を隠しているというなかなかの厨二病集団で、その中には味方も敵もいるのですが、そこもものすごい伏線が効いててヤベェです。
南方熊楠は宮沢賢治から得たヒントで、思考する粘菌の結晶を作るのですが、この思考する粘菌というのがとにかくすごい。人間に幻を見せてその幻を現実にしてしまう。
幻と現実の切り替えがとにかく「まさにSF!!」という感じでして、これはもうSF小説のやるべきことを成し遂げた感じです。
昭和の世界なのにサイバーパンクみすらある(粘菌パンク?)設定はどうすれば出来上がるのでしょうか。
ネタバレ承知で言ってしまうと(というかだいぶ前に出た本なのでいいですよね)人が同じ夢を見る時代にはまだ早い、という結論なのですけど、それってコンピュータの時代ですよね。
サイバーパンクならぬ粘菌パンクの世界なんですけど、そも粘菌パンクという発想がすごすぎる……。
第一部のラストがとにかく完璧で、第一部を読み終えてしばらくボーッとしましたよね。第二部を読み終えてまたボーッとしましたよね。読了して「なんだこれは……やばすぎでは」ってなりましたよね……。
ずっとこういうのが読みたかったんですよ。一大伝奇ロマン。まさに傑作。まさにSF。
この物語で描かれる世界はあり得たかもしれない「幻」であり「夢」なんですよね。そこの描写も素晴らしいのです、夢とか幻とかを正面から料理している。まさにSFのやるべきことじゃないでしょうか。
読んだ結果、宮沢賢治と江戸川乱歩が推しになりましたwちゃんと読んでみようかな……。
あと今回はまとまった読書時間じゃなくて小さい隙間時間に読んだのですが案外読めました。読書だいじ。
ヒト夜の永い夢、分厚くて尻込みしてましたが読み始めたら止まらない傑作でした。久々にめっちゃ面白いSFを読んだぞ。
どうにもSFは筒井康隆とか小松左京とかを再読する弱いオタクになりがちなので、新しいものを読むのはやっぱり楽しいです。
これからもモリモリ読むぞ。