めんどくさがりの自分の尻を叩く読書ブログ

読書は好きだ。だがめんどくさい。だけれど面白い本を読みたい。だから感想を書いて尻を叩くというブログ。

ギブ・ミー・ア・チャンス(荻原浩著)の感想

今回も「ライトじゃないノベルを読もう月間」です。

ギブ・ミー・ア・チャンス

ギブ・ミー・ア・チャンス

 

今回はこれです。図書館で借りてきました。

とても明るい短編集でした。「ライトじゃないノベルを読もう月間」って言ってますけど、登場人物が大人なだけで実質ライトノベルなんじゃないすかね……。

特に気に入った三作品の話をしようと思います。

 

・探偵には向かない職業

元力士の探偵の話です。とにかくまあ悪目立ちして尾行はバレるし機敏に動けないしで、主人公はホント探偵に向いてないのですけど、それでも探偵をやろうと頑張るのがよいです。

ネタバレになりますがストーカー被害の依頼をうけて、オラついた暴力男と戦うことになるんですけど、なんせ元力士なので多少の可愛がりではダメージを受けない。つよい。力士つよい。

主人公が本当に無口で一言二言しか喋らないのも、インタビュールームの力士感があります。主人公はちゃんこを作るのが得意で引退後ちゃんこ屋をしないかと言われるのですが角界とはもう関わりたくないと探偵になるんですよね、どういう目に遭ったのかそことラストで匂わせるのが面白かったです。

 

・冬燕ひとり旅

元ロックシンガーの演歌歌手の話です。とにかく売れない演歌歌手で、もともと男友達とやっていたバンドでデビューしたのですが、バンドは改名させられ次第に分解し、主人公はアイドルとして売り出すことになり、それも失敗していまはスナックや地方のイベントやスーパー銭湯で演歌を歌っている……というのがバックボーンです。

スナックで歌ったときに昔バンドを組んでいた男友達に似た男と出くわして落胆するシーンがすごく好きです。もうどこにも彼女の求めるバンドの仲間はいないのだということでしょうか。

そしてネタバレ承知で書いちゃいますがラストがめちゃめちゃカッコイイ。正月の売れない演歌歌手を集めたいじり番組に出演して、真っ赤な花魁衣装で舞台に上がり、曲が始まる瞬間着物を脱ぎ捨てブラとデニムになってバンド時代に好きだった男の書いた大好きな曲を歌うのです。タイトルは「悪魔に騎乗位」。ロックすぎる……。

この後どうなったかは書かれていませんが、すごい騒ぎになったんだろうなあ。ワクワクします。

 

・タケぴよインサイドストーリー

流行ってないゆるキャラの中の人の話です。

田舎の町で養鶏とシイタケ栽培が盛んだと作られた「タケぴよ」というゆるキャラがいて、それが養鶏農家がリアリティを追求したばっかりにブサイクな見た目になってしまい、その着ぐるみがイベント会社に置いておくとお金がかかるから、と主人公が着ることになってしまいます。

イベントステージでズッコケたりうっかり喋ってしまったりして、そのクレイジーさが話題になってタケぴよは一躍人気キャラクターになるのですが、ふなっしーみたいな感じを想像すればいいのかな……。必殺技は「ミミズついばみ」です。

いままで誰も興味のないキャラクターだったのに、一度動画サイトで話題になったとたん希望が殺到してぬいぐるみが作られたりグッズが作られたりして、実に人間が浅ましくておかしいです。

「いきなりハイテンションですね」と言われて「うだべ。毎日鶏の手羽先食っでっから」とブラックユーモアを売りにするゆるキャラなのも実におかしくて。ハチャメチャだな!!

主人公がコンプレックスに感じていた声がウリになるのもすごくいいなあと思います。

 

この短編集は基本的に「ギブ・ミー・ア・チャンス」、なにかに挑む勇気で展開されていて、どれもワクワクします。表題作も面白かったですしバラエティに富んでいてとても良かったです。

というか恐ろしいのはこれエッセイの編集者さんに勧められて読んだのですけど、何を面白いと感じるか把握されてるのヤバくないですか。これもレトリックの塊だったのでレトリック貧弱ライターのわたしには刺激的な作品でした。

次は金魚姫読もう。